焼き嵌めという技法〜山車まつりを縁の下から支える匠の技

焼き嵌め(やきばめ)という技法をご存知ですか。

鉄を焼いて嵌める。

木製の車輪の周囲に鉄輪を嵌める技法です。

車輪の周囲に嵌めるので、きっちりと嵌っていなければなりません。

車を曳いているときに車輪の周囲の鉄輪が動いてずれてしまうようではダメです。

 

どうやって、鉄輪がずれないようにきっちりと嵌めるのか?

鉄の温度による膨張と収縮を利用します。

鉄輪を車輪に嵌める前に、鉄を熱して膨張させ、嵌め込んでから冷却して収縮させる。

それで鉄輪がずれないようにきっちりと嵌るわけです。

そうやって車輪の周囲に鉄輪を嵌め込むことを『焼き嵌め』(やきばめ)と言います。

 

現在修復作業を請け負っている山車の車輪の焼き嵌めの作業に立ち会ってきました。

焼き嵌めは鍛冶屋さんと呼ばれる鉄工業者がやってくれます。

 

今回は、既存の鉄輪が若干緩かったので、既存の鉄輪を一旦外して少し短くして嵌めなおします。

どれだけ短くするかは鍛冶屋さんの経験をもとに緻密な計算によってはじき出され、ぴったりと合うように調整される。

写真は、焼き嵌めをする前の状態、車輪と鉄輪が離れた状態ですが、車輪の外径より鉄輪の内径の方が短く、この状態では鉄輪を車輪に嵌め込むコトができない。

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焼き嵌めの作業開始。

炉の中で、鉄輪を熱する。

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炭を強力なバーナーで炙って温度を上げる。

温度が上がってくると、鉄が真っ赤になり膨張してくる。

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鉄が膨張し、鉄輪の内径が車輪の外径より大きくなったところで、鉄輪を炉から取り出して車輪に嵌め込むわけです。

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このタイミングは、熟練の鍛冶屋さんの経験と勘によるものです。

 

鉄輪を嵌め込んだときに、鉄輪が真っ直ぐになるように冷却する前にハンマーで叩いて位置を微調整。

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鉄の温度は、木の発火点以上に熱いので車輪から煙が出て炎が上がる。

モタモタしていられない時間との戦い。

鍛冶屋さんの息のあった連係プレー。

位置の微調整が済んだら、水をかけて一気に冷却。

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冷えて収縮した鉄輪は、ハンマーで叩いても微動だにしないくらいにキッチリと嵌まり込んでいる。

 

鍛冶屋さんの匠の技です。

昭和初期までは大八車が使われていて、大八車の車輪にも鉄輪が嵌められていたため、全国各地に車輪の焼き嵌めをする鍛冶屋さんはいたらしい。

しかし、現在では祭りの山車に使われる車輪くらいにしか鉄輪の焼き嵌めが用いられない。

必然的に、焼き嵌めができる鍛冶屋さんは激減して、全国的に見てもごく少数の鍛冶屋さんしかできなくなっているようだ。

 

長浜にこのような匠の技を持った鍛冶屋さんがいてくれるのは心強い。

山車まつりの伝統を縁の下から支えてくれている鍛冶屋さん。

伝統の技をいつまでも守っていかねばなりません。

 

 

 

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昭和38年(1963年)滋賀県長浜市生まれ。 漆塗職人をやってます。お箸お椀から建造物の漆塗りまでオールラウンドにこなします。日本一の漆バカを目指し、日本初のうるしエバンジェリストとして漆の魅力を広く伝えていきます。

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